衛生学学外実習レポート@清輝橋グループ〜安田内科医院〜    

はじめに

この学外実習で学んだことは、当初、実習希望した時には凡そ予想もつかないほど、非常に多岐にわたり、 思いがけない所にまで枝が出、芽が出、驚くほどに広がりをもった実習となりました。 担当患者さんS.S.さんを通じて学んだこと、安田先生はじめ、佐藤先生、片岡先生の清輝橋グループから学んだこと、この実習を通じて出会った多くの先生方から得たことは計り知れず、その出会いはその当時の自分にいい意味でのショックと刺激となり、また これからの自分にずっとずっと大きな影響を与え続けると思います。 高めあって行こうという先生方や学生たちの中で活動できたことは自分にとって幸運であったと思います。

学んだこと。

    診診連携 〜担当患者さんS.S.さん宅を通じて〜

*在宅介護 〜利用者と提供者、その問題点、視点の違い〜

*ALSという病気 〜S.S.さんの病気「ALS」、その患者さん本人の思いとは〜

*自分の考える医師像 〜自分が本当になりたかったのは・・・

○S.S.さん、清輝橋実習に関する活動 S.S.さん宅の在宅介護は主治医の安田先生はじめ、他の医師やケアマネージャー、訪問看護師、訪問介護のヘルパー、薬剤師などのコメディカル、その他人工呼吸器業者など多種多様な職種間の連携から成り立っている。

  介護を受ける側(S.S.さん)、介護する側(主に奥様)、家族以外の介護提供者、医師以外のスタッフの方々、各立場で視点がどう違うか、ずれはないか、一人で出かけて行き、インタビューを通して色々な職種の方に触れ、その中で介護保険、在宅介護の実際について学んだ。 (以下「訪看」→訪問看護、「訪介」→訪問介護、「訪マ」→訪問マッサージの略)

○4月22日(月) 清輝橋グループ 合同カンファレンス(1)

○4月28日(日) 安田内科 訪問診療に同行

○4月29日(月) 安田内科 外来診察見学

○5月29日(水) 医薬懇話会 「訪問看護におけるターミナルケア」

○6月25日(火) 合同カンファレンス(2)

○7月29日(月) 佐藤医院 一日実習 AM入浴介助・食事介助  PMリハビリ、外来見学、病院訪問

○7月30日(火) S.S.さん宅へ初訪問 安田先生と。 安田先生往診+訪看・訪介 ・安田先生の往診に同行、患者さんSさん宅にも訪問。今までの経緯に関して安田先生より簡単な説明「在宅介護でスタッフ間の連携が非常にうまくいっているお宅」と紹介。

○8月8日(木)  S.S.さん宅 訪問 (ここから全て一人で訪問) 訪介

13:00-14:00   身体介護:Kさん(サルピス・登録ヘルパー) ・経腸栄養であるSさんは微量元素(銅)不足による再生不良性貧血の危険性がある。その予防策としてハーモニック(経腸栄養剤)に奥様がココアを混ぜ入れることで微量元素(銅)を補っている。

○8月10日(土)  S.S.さん宅 訪問  訪介・訪マ

12:30-       訪マ:藤原先生による四肢筋萎縮部の軽刺激。

13:00-15:00   訪介:Koさん(なごみ・看護免許を持つヘルパー) 〜13:00-15:00この間奥様外出。〜  

 ・看護師の資格を持つヘルパーのKoさんがいる時が、奥様の貴重な外出時間。この2時間は安心して日用品や介護消耗品などを買いに出かけられる。

・一週間のうち、この二時間しか安心に外出できる時間がない。ここに、医療行為の許されないヘルパーの痰吸引問題がいかに、介護家族の荷重になっているか垣間見た。 15:00-16:00   奥様から介護保険についてSさん宅の現状、今の制度に対する考えや様々な思いをお伺いする。

・今までは毎日色んな人が入れ替わり立ち代り部屋に入ってくることに抵抗があったが、今はふっきれ気にしないようになって楽になった と。

・とにかく前向きで明るい奥様。介護保険が実施される前から新聞の切り抜きや資料をファイリングされており私に全部くださった!!

○8月14日(火)  S.S.さん宅 訪問  訪看・訪介

13:00-14:00   看護+介護:Koさん(なごみ) 介護:Dさん(サルピス・常勤ヘルパー),

○9月3日(火)  S.S.さん宅 訪問 訪看

13:00-14:00   看護:Dさん(サルピス) ・訪問看護師であるDさんから見た在宅ケアについて,その思いについてのお話。「利用者さんが何を本当に必要としているのかを常に考える」「利用者さんの24時間のうち自分が接しているのはほんの1-2時間。自分のお陰では決してないんだということを忘れちゃいけない」という言葉が深く印象に残った。

 ・Sさんご本人にインタビュー

  ・人工呼吸器を付けながらも、色々な質問に答えてくださった。介護を提供する人に大切なのは? ―「いかに患者の立場に立てるか」Sさんのその言葉に力が感じられた。Sさん自身が過去入院中、医療者に対して思うこと、また不快に感じた経験などを話してくださった。

・しかし「今家に来てくれているひとはみなようしてくれる」と現状にはSさん自身も満足されているようだった。

・私のような清輝橋実習生に対し、「立って見ているだけでなく、もっと自分が動いて実際にやってみなきゃいけない」Sさんご本人の言葉はどれも大変貴重な意見であり、Sさんが率直に意見してくださったことに胸がじんわり、熱くなった。

○9月6日(金) 片岡内科 一日実習  AM 外来見学  PM往診同行(Sさん回路交換)  Sさんの人工呼吸器 回路交換を見学 

・安田先生-片岡先生の連携。

○9月17日(火) 合同カンファレンス(3)

○11月6日(火) 合同カンファレンス(4)

○11月17日(日)  S.S.さん宅 訪問 

13:00-13:30   ・Sさんよりカニューレの具合が良くないとのことで、安田先生と時間を合わせSさん宅同時訪問。カニューレ交換により問題解決。 13:30-14:40   その後Sさんと奥様の現状に対する心境、今後についての考えをお伺いする。

          ・「Sさんに自分は何かしてあげられないだろうか。」

          という思いが湧き、意思伝達手段や読書ができるような工夫ができないか、模索し始めた。

○12月8日(日)  S.S.さん宅 訪問

16:10-18:00    日曜日の夕方に訪問。訪問看護も訪問介護もない日に訪問するのは初めて。S.S.さんのベッドの横で奥様はテレビを見てくつろいでいらっしゃった。その部屋はとても穏やかで暖かい空間に感じた。毎週決まってみるテレビ番組をSさんと奥様に混じって見させていただいた。

 ・最後にこの三ヶ月、S.S.さん宅の実習で自分が学び感じたことをS.S.さん、奥様それぞれに伝えた。Sさんは私の話をうなずきながら、まっすぐ目を見て聞いてくださった。たまらなく嬉しかった。

○12月9日(月) 合同カンファレンス(5・最終)

○12月26日(木) S.S.さん宅 最後の訪問

・年末のご挨拶とこれまでのお礼を込めて。奥様から「よく頑張っとられたね」とプレゼントをいただき、思いがけない贈り物に胸が熱くなった。

・本当に素敵な出会いができたことに改めて感動し、感謝の気持ちでいっぱいになった。

 

  その他の活動を併せた活動内容 私は安田内科医院実習生でしたが、同じ清輝橋グループの佐藤医院・デイケアセンターや片岡内科での実習も経験させていただきました。 その他、安田先生のご好意で参加させていただいたPCFMネットやTFCの活動に参加させていただき、そこで出会った先生の診療所へ出向いていったり、医師とコメディカル合同で行われる医薬懇話会に参加させていただいたり、月に一度、はるばる西宮から伊賀先生に来ていただき、実際の患者さんご協力の下で「循環器疾患・身体診察勉強会」をしたり、ついにはこの清輝橋グループの実習生数名でサークル"オシア"OCSIA(Okayama Clinical Skill Improvement Association)を結成・・・。この一年間で繰り広げた活動は枚挙にいとまがありません。

 

 〜2002年 前期病院実習 開始〜

4月22日(月) 清輝橋グループ 合同カンファレンス(1) 〜衛生学・学外実習「清輝橋グループ」開始〜

4月28日(日) 安田内科 訪問診療に同行 4月29日(月) 安田内科 外来診察見学

5月12日(日) 岡山TFC勉強会 「伊賀幹二先生による講演会」 5 

5月29日(水) 医薬懇話会 「訪問看護におけるターミナルケア」

6月25日(火) 合同カンファレンス(2) 〜夏期休暇を利用して〜 

7月29日(月) 佐藤医院 一日実習 AM入浴介助・食事介助  PMリハビリ、外来見学、病院訪問

8月27日(火) 伊賀医院 外来見学+α AM外来見学 PM医師会での英会話

9月6日(金)  片岡内科 一日実習 AM外来見学  PM往診同行(Sさん回路交換) 

9月17日(火) 合同カンファレンス(3) 〜後期病院実習 開始〜

10月27日(日) 伊賀先生による循環器勉強会 第一回

11月6日(火)  合同カンファレンス(4)

11月24日(日) 伊賀先生による循環器勉強会 第二回

12月9日(月)  合同カンファレンス(5・最終)

12月29日(日) 伊賀先生による循環器勉強会 第三回

2003年〜

1月19日(日)  山下先生、中西先生によるRSbase勉強会 安田医院にて。

3月1日(土) 〜2日(日) 岡山TFC勉強会 「診療所における卒後臨床研修」を考える

 

◎S.S.さん 大正13年生(78歳) 男性

○病名:脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA) (昭和40年・41歳)  

HOT(在宅酸素療法) (平成11年〜)

・胃瘻造設あり (平成11年〜)

○病歴 昭和40年(41歳)  脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)と診断・告知  

平成6年頃(70歳) 寝たきりとなる。

平成11年 6月〜 呼吸困難にて旭東病院緊急入院 7/1  気管切開→HOT開始、 8/30 胃瘻造設

平成12年10月 →胃瘻ボタンに交換

平成14年1月(78歳)〜 それまで人工呼吸器使用は夜間のみ(日中は人口鼻)であったが、貧血にて市民病院に入院した際、呼吸状態不良となったため、以降→24時間人工呼吸器装着となる

○既往歴 平成12年 右胸部帯状疱疹 右気胸

平成13年 不安感強く急性増悪(精神安定剤にて改善)

平成14年 外痔核手術(森谷肛門科入院)

○家族構成 (住居) 奥様と二人暮し(一階建て一軒屋) 子供はいらっしゃらず、S.S.さんは一人っ子で兄弟はいない。 二人兄弟の奥様の弟家族は市内在住。

○介護者:奥様 S.S.さんが入院したときなどは弟嫁が時折様子を見に来るが、主介護者は奥様一人。

○S.S.さんの日常活動の状況    移動、食事、排泄、入浴、着替:全介助    痴呆なし。 ☆要介護度:5 寝たきり度:C-2  

○元の職業:教諭(英語・社会)

〜今までの経緯・背景〜 

〜寝たきりになるまで〜 41歳の時に診断・告知を受けたものの、自転車や自動車など利用することで58歳(昭和57年)まで教職(英語・社会)についていた。退職後、59歳頃から車椅子生活となるも、伝い歩きやトイレなどは自力で可能だった。しかしその後徐々に筋萎縮が進行し、70歳頃よりベット上での生活となった。 寝たきりとなってからは唯一の同居家族である奥様が中心の介護者となり、近医清藤医院、岡山訪問看護訪問ステーション看護協会、ベネッセのヘルパーによる在宅介護が始まった。 〜24時間人工呼吸器〜  70歳で寝たきりとなるも、人工呼吸器使用は夜間のみで、入浴やポータブルトイレでの排泄も可能であった。  78歳時の24時間人工呼吸器装着の意味は大きく、本人にとれば、とれる姿勢や日常活動の制限が随分かかる。移動はもちろん、入浴や排泄全てにおいて介助が必要となる。筋萎縮があるため座位をとることはすでに困難であり、完全にベッド上の生活となる。

 

S.S.さん〜 平成13年 旭東病院へ検査入院か退院後、不安が強く、精神的に不安定だった。7月、急性増悪のため旭東病院救急搬送され入院。精神安定剤にて不安を抑え間もなく退院となった。 治療法のない筋萎縮の進行を受け止めていくしかないSPMAという病気に対する不安からか、ご本人の元々の性格からか、多少神経質な面はあるようである。

○在宅介護・連携状況 ・訪問診察:   

安田内科医院(安田先生) 週1回訪問診察(H10.11/10〜) 

・カニューレ交換:片岡内科(片岡先生) 2週間毎(H11.11〜)

・たけだ皮膚科(武田孝爾先生) ・訪問マッサージ:藤原治療院(藤原先生)

・訪間看護:   岡山訪問看護訪問ステーション看護協会  週3回(月・水・金)Oさん,Sさん(看護師)

・訪問介護T: ケアセンターなごみ

 土曜日(隔週)複合型介護(13:00-14:00は 身体介護)Koさん(看護師+ヘルパー) ・訪問介護U: サルピス  月〜金。DさんKさん(ヘルパー) 

・訪問薬剤師: ラブ青江店(正井薬剤師) 

・人工呼吸器: 岡山在宅人工呼吸センター ○奥様: 第一&第三土曜目外出(趣味:カメラ、音楽鑑賞・・・)

*Sさんのケアプラン

月  訪看 訪介 訪マ

火  訪看 訪介

水      訪介

木  訪看 訪介 訪マ

金      訪介

※訪看  訪介

 ※第1,3土曜日→身体介護+家事援助(〜17:00) 第2,4土曜日→身体介護のみ 福祉用具貸与:エアマット

〜現在の状況〜  HOTの扱いに奥様も大分慣れ、S.S.さんも昨年以来急性増悪などの大きな問題なく、平穏な生活を営まれている。安田先生とはもちろん、訪問看護の看護師さんやヘルパーさんとも良好な関係が築かれており、奥様も、またS.S.さんご本人も満足し、感謝しておられた。  

S.S.さんの現在の状況は、手足の指先と顔面筋が動く程度。奥様を呼ぶためのブザーがベッドサイドに設置されており、例えば痰を吸引して欲しい時などは、わずかに動く右手でボタンに触れればブザーが鳴るようにしている。

・人工呼吸器のエアカフは通常10mlのところを 4mlに調整することで、わずかに発声可能となり、読唇で意思疎通もできる。カニューレ交換時もサチュレーションが下がることはなく、HOTに関しては落ち着いている状況である。

・栄養は胃瘻から朝夕にハーモニック(500kcalずつ)、昼には白湯。一日計1000kcalを摂取。微量元素欠乏性貧血予防のためハーモニックにカカオを補充している。

・痰吸引は天候にもよるが、3−4時間毎にたまってくるため、夜間も必要あれば時間ごとに奥様が痰吸引されている。

・筋萎縮のため座位はとれず、ベッドに寝たきりである。24時間人工呼吸器装着で、時にテレビを見たり。

・奥様はお元気で趣味も多種多様、活動的で大変前向きな方である。一番の趣味はカメラでS.S.さんの部屋にも奥様が撮った植物の写真が数枚飾られている。介護保険が制定される前から介護保険に積極的に関わり、当初何もわからない私に、色々な資料や新聞記事でもってその仕組みや現状、問題点などを教えてくださった。

・第1、3土曜日は17:00までヘルパーさんに家事援助してもらい、その間奥様は気分転換のため、趣味のために外出する。また、4ヶ月一度(2,6,10月)3週間の検査入院を利用し、友人との集まりや同窓会など、遠出できるよう調整している。

S.S.さんの寝ている部屋で奥様は洗濯物をたたんだり、一緒にテレビを見たり、夜はS.S.さんのベッドの横で布団をひいて寝ている。

感想

ガイダンス

OSCEを終え、これからいよいよポリクリを控えた4年生の終わり。私は以前から関心のあった診療所、町医者って一体どんな感じなんだろう、というごくごく些細な興味から衛生学の学外実習に参加しました。 それがまさかこんな実習になるとは・・・!!! 一言では言い尽くせないほど本当に色々な場での活動を経験し、一年前の自分と比べると、人やものに対する見方や医療に対する考え方に随分広がりができたと思います。

*4月〜 診療所実習 ・・・診療所、町のお医者さん、家庭医?? 清輝橋実習としての最初の活動は安田医院での訪問診療(往診)・外来見学でした。 診療所の外来見学はもちろん、往診なるものを経験するのは初めてでしたが、そこで「本当の意味で患者さんとの距離の近さ」を感じ、また、部活やイベントやらでいつしか忘れかけていた、本来自分が目指していた“なりたい医師像”を、この診療所実習で再認識することができました。このことがこの清輝橋実習で得た数ある収穫のうちの1つでもあります。これをきっかけに、自分が将来どんな場所でどんな医師になりたいか、今後の人生設計についてより真剣により具体的に考えるようになりました。

5年生の4月。大学病院での実習が始まって間もなく、医療の現場でみる色々な場面から、患者さんから一番近い存在は医師じゃなく看護師さんなのでは・・・、「自分は医師でなく、看護師になりたかったんじゃないのか?」と真剣に考えたことがありました。 そんな折、診療所実習で見た光景

―― 患者さんが診察室に入り、「先生、今度はこっちの方がいてぇんじゃぁ〜」と、いいながらも先生のお顔を見て安心したように笑みをこぼす患者さん ―― その表情、その光景が診療所の外来見学で一番深く胸に残りました。『患者さんを安心させてあげる』。この安心感というのが如何に患者さんにとって大切な要素であるかということを、病院実習で痛感していた私は、この光景が今でもずっと目標です。 患者さんと距離が近いというのは、決して心の距離だけをいうのではなく、話す時の目線や患者さんに対する関心をもてるかどうか、ということも含めた「近さ」であり、患者さんと接する時間の長さというより、その密度、質が大切であるということを実感しました。それを実践されている安田先生には人との基本的な触れ合いからちょっとした心遣い、思いやりが、医師-患者関係に非常に大切だということを学びました。 医療過誤が騒がれていますが、こういった信頼関係があれば、少々のことでは大事には至りませんよね。 往診では、患者さんの疾患やメンタル面に加え、その家庭環境を含めて総合的に患者個人を診ていくということの大切さを実際に感じることができました。足の不自由な一人暮らしのおばあちゃんが椅子をたくさん置いて移動する際の支えにしていたり、どんな家でどんな生活をしているのか、行って見るだけでその患者さんを見る目が随分変わります。目の前にいる患者さんの今現在困っていることのみに目を向けただけでは、真の治療はできない、と実感しました。

*7月〜 S.S.さん・・・在宅介護、介護保険、連携(診診、病診、コメディカル、訪問介護・看護・ヘルパーetc) S.S.さん宅の実習では、一人の患者さんを取り巻く医師も含めた 各スタッフ間の連携を見ることができました。介護を受ける側、介護する側、家族以外の介護提供者、各立場で視点がどう違うか。インタビューを通して色々な職種の方に実際に触れることで、介護保険及び在宅介護の実際について学び、その良い点、弱点などを考えるよい機会となりました。 人工呼吸器を使用しながらのSさんとの言葉を介した意思疎通は容易ではありませんでしたが、「介護する人、患者を診る人にとって大切なこと、それはいかに相手(要介護者、患者)の立場に立てるかだ」と話してくださったSさんのお言葉、将来医師になる私たち医学生や看護学生は真摯にうけとめるべき重き言葉だと思いました。 Sさん宅の実習を続けるうち、いつしかSさんに何かしてあげたい、自分が何かよい風を入れることはないかと考えるようになりました。電子機器を使った意思伝達装置、せめて読書が出来る座位をとれないか・・・。しかし・78歳という年齢・発病からの年月は長く、わずかに動くのは指先、足先と眼球。・電子機器に関する知識はない、という問題点。それ以前に「果たしてSさんは今以上のことを望んでいるのか」という大きな疑問にぶつかりました。 何かしてあげたいではなく、何を必要としているのか、何か必要としているのかを適切に理解していなければ、ただSさんの負担になるだけ。本当の意味での思いやりとは違う。例え、何かをした欲しいという欲求があるとしても、その欲求に対して今どの程度の執着、積極性があるのかを把握しなければいけない。私はまだ手の動く神経難病患者さんの作ったHPや体験記を読むことで、患者さんの気持ちに少しでも近づこうとしました。

ALSという病気 ・・・メンタルサポート ALSは50歳代、すなわち人生の活躍期に発症し、急速に進行する病気です。四肢の動きが失われるだけでなく、会話、嚥下が生涯され、最終的には呼吸麻痺を起こすという一連の機能障害が次から次へと起こり、新しい障害に対して精神的適応が出来ぬままに、次の障害を迎えてしまうという難しい事態となります。しかし、知能・精神機能は正常のままであるので、患者はこれらの難しい事態と精神的心理的に真っ向から立ち向かわなければならない・・・。 Sさんのこれまでの経緯を改めて見直しました。38年前に告知を受けてからの葛藤、精神的打撃は想像を絶するものだったでしょう。その奥様にも大きな影響を及ぼしたでしょう。 奥様に何かしてあげられないか悩んでいるという思いを打ちあけたところ、「(Sさんは)今のこの平穏さを守りたいんじゃないんかなぁ」とおっしゃられました。 今、この平穏な現状を精神的・心理的にもサポートしていくことがSさんにとって、また奥様にとっても一番なのだ。親身になって意見してくださる奥様にお話を伺い、自分であれこれ模索した結果、私はそういう結論に至りました。「何かしてあげる」ことで恩返しをするのではなく、このSさんを通じて学んだ数多くの大切なことを自分の将来に生かしていくことがSさんと奥様への一番の恩返しだと。

10月〜 もうノンストップ ・・・循環器勉強会、RSbase、TFC勉 強会、OCSIA結成 10月からの清輝橋グループの活動は飛躍的な広がりをみせ、すさまじいスピードで進んでいきました。その活動内容については、とても紙面に書ききれないので、これについては次期実習生に直接お話する機会があればと思います。

この実習で変わったこと、良かったこと

・自分の将来に対する考え方が大きく変わった。そもそも自分がどんな医師になりたかったのかを再認識するきっかけになり、「どこの病院で何を専門に」ではなく、「患者さんとの距離感(心の距離、場所の距離、)をどうもてる医師になりたいか」という視点で自分の医師像を考えるようになりました。

・アクティビティの高い先生方と仲間に恵まれた環境で今回の実習に参加できたことは私にとって思いがけない幸運でした。先生方の行動や仲間の積極性に刺激され続け、何度も感化されることで自分を高く保つことができました。

・大学病院での病院実習と並行して診療所の医療を見られたため、それぞれを対比してとらえることができ、ただなんとなくいいなぁ ではなく、どういう点がどのように良いと思った という明確な視点、意見をもつことができました。

・この清輝橋実習に参加していなければ、これから先、働きだしても、もしくは一生知らないままだったかもしれないことを学び体験し、自分の中での“医療”に対する幅が非常に大きく広がりました。

TFC勉強会やPCFMネットは、清輝橋グループとは直接関係のない他県の先生と繋がりがもてるとても貴重な出会いの場となりました。世の中にはこんなにアクティビティの高い向学心あふれる開業医の先生がいるんだなぁと度肝を抜かれました。 ・・・言うまでもなく、自分の将来に大きな影響を与えました。

・Sさん宅の実習を通して、在宅介護や介護保険制度の実際に触れることができたという以上に、一人の患者さんに対する接し方、何を本当に必要としているのか・・・について悩み、考え、模索できたことは自分にとって大きな収穫でした。 最後に この実習で経験し活動したことは、本当に濃密で驚くほどの広がりをもったものとなりました。何が一番良かったか、、、私の場合、自分の一生のライフワークとする医師という存在について、真剣に考えることが出来たことでしょうか。医師には色んなタイプがあり、同じ開業医でも患者さんとの距離のとり方、アプローチの仕方はまちまちです。医師は一生勉強、なんだか重苦しく感じていたこの言葉も、仲間と刺激しあい高めあいながら、実に楽しそうに意気揚々と活動されている先生方を見ていると、自分のなかのやる気と負けん気を刺激する前向きな言葉に感じます。

  自分がどんな人生を送りたいか、人とどう関わっていきたいのか、医学に加え人間学ともいえる姿勢をこの一年間の実習で学んで来れたのではないかと思います。

  最後に数ヶ月に及ぶ実習に協力してくださったS.S.さんとその奥様はじめその他介護スタッフの方々、また一年近くにもわたり様々な活動に参加させていただき、私たち学生の後押しおよび指導をしてくださった安田先生、佐藤先生、片岡先生、伊賀先生はじめ、TFC勉強会で出会った多くの先生方、各診療所のスタッフの方々、そしてこのような機会を与えてくださった衛生学教室の先生方、本当にありがとうございました。  一緒に活動してきた清輝橋グループのメンバーにも心から感謝しています。これからもよろしく。ありがとう!